黒備前

先日、「ふっ」と思いついて、伊勢丹百貨店にはいった。
六階のギャラリーで備前焼の展示会があっていた。
焼き物はもともと大好きである。
花器や食器、置物、などの中に酒器のコーナーがあって、
この酒呑と「ふっ」と目があってしまった。
深いしっとりした茶黒の地に金茶色の釉薬が極軽くかけられている。
自然の流れにまかされて作為がほとんど感じられない。
つまり鑑賞する側には、穏やかな安らぎが湧き上がるのである。
なるほど、いい値段がついている。
通り去りがたく、さりげなく前を四度ほども往復した。
呼びかけに抗えず、結局はそれに応えるほかは無く、購入することにした。
ちょうどその場に居合わせた陶芸作家が挨拶に来られた。
「この酒器への思いいれは深いです・・」
「ますますのご活躍を・・・」と私。
「ふっと」に基づく行動だったから、ジャッジの迷路には入らなかった
いい日であった。
黒備前酒呑 廣宗作