Tさんが歌い終わったときに、少し間が空いたそうだ。

母が言うには長く感じたけれど1,2秒だったような・・・。

その後、ワレにかえった仲間達からの割れんばかりの拍手と

賞賛の嵐がしばらく続いたという。

地区老人会の温泉旅行、カラオケ大会の出来事だった。

湯に入り、食事も終わり、酒宴も終わりに近づいたときに、

メンバーでもある司会者が会場を眺めて、

『おや、このヒトはまだ歌ってないぞ、

せめて1度くらいは当てておかなきゃ・・・』と配慮した人なのだった。

歌は淡谷のり子の「別れのブルース」だったそうだ。

皆が言うには、

(淡谷)本人よりも上手、歌唱力のすごかこと、今まで聞いたことのなか、・・・

田舎の小さな村の老人会の中に「伝説」が生まれた瞬間だった。

Tさんがこれほどまでに歌がうまいということを誰も知らなかったらしい。

Tさんは、何十年も昔、遠くの村から17歳で嫁いできた人だった。

朝から夜まで夫に従って農業にいそしみ、6人の子供をもうけ育て上げた。

母の話では、無口で、小柄な日焼けした土の塊のような農婦にしか見えなかった。

だが、受け継いできたDNAは、どうやら絶対音感にすぐれ、

歌なら1度聴いただけで憶えるといった人だったらしい。

娘さんの一人はとても歌がうまく、

ピアノも数度聞いただけの曲を弾けたらしい。 

だが、Tさんはおそらく音楽の道に進みたい、とは

一度も思わなかったのではないだろうか。

職業や環境は自ら求め勝ち取ってゆくという感覚は端からなかったようだ。

TVやラジオからの音はもちろんだが、鍬を振り土を打つリズム、

竹林を渡る風のゆらぎ、小川のせせらぎ、子供たちの歌う歌、・・・・・・

豊穣な交響楽の流れの中に自らがいることを淡々と受け入れていたからだ。

それ以前に自分に、才能や素質があるということさえ気がついていたかどうか。

人はそれぞれ自分のプログラムを歩む。

ゆったりでもよいし、激しくでもいい。

びくびくしながらでもいいし、小賢しくてもいいだろう。

Tさんは大河の流れにゆったりと乗った。

追うようにTさんの伝説も河のかなたに流れ去ろうとしている。




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まとめtyaiました【歌】

Tさんが歌い終わったときに、少し間が空いたそうだ。母が言うには長く感じたけれど1,2秒だったような・・・。その後、ワレにかえった仲間達からの割れんばかりの拍手と賞賛の嵐がしばらく続いたという。地区老人会の温泉旅行、カラオケ大会の出来事だった。湯に入り、食...

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Author:ロックエヴァ
療術家  

大黒屋誠二郎師を師匠として、伝授された画像や技法などを使って日々、療法に取り組んでいる。
画像、シール,保健水などの活用を中心に、心、意識、身体などについて研究を深めていく事を目的とした「まいど会」の会員。

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